商標出願の際の留意点② ~商標の使用意志について~ (弁理士 岩佐佑希子)

岡特許商標事務所 弁理士の岩佐です。
今回は、「商標の使用意志」についてご説明したいと思います。

前回の記事で、商標出願をする際には、複数の指定商品・役務を一つの出願で指定できること、
指定商品・役務の属する区分が増えるごとに出願や権利維持に必要な料金が高くなることを書きました。

「それじゃあ、同じ区分内であれば料金が変わらないなら、同じ区分に属する商品・役務を全部書いてしまえばお得なのでは?」と思われるかもしれません。
確かにその通りなのですが、制限なしにいくつでも書いておけば良いかというとそうではありません。

本来、商標権というのは、「使用している」もしくは「今後使用の予定がある」商標について独占排他権を与えるものです。
これは、使用する予定がないものを権利として登録してしまうと、他に使用したい人がいる場合、その他人の産業活動を妨げることになってしまうからです。

ただし、実際の審査では、全ての出願について出願人に使用の意思をいちいち確認することは行っておりません。
ですが、あまりにもたくさんの商品・役務を記載した場合など、「商標の使用及び使用の意思があるかについて合理的疑義があるもの」である場合には、「本当に使う予定があるの?」ということで、特許庁から拒絶理由の通知がなされ、使用意志の確認(証明書類の提出等)を求められます。
具体的には以下の(1)、(2)、(3)に該当する場合に、証拠書類の提出等が求められます。

(1)いわゆる「総合小売等役務」を指定した場合
(2)類似の関係にない複数の小売等役務を指定している場合
(3)1区分内での商品又は役務の指定が広い範囲に及んでいる場合

(1)の「総合小売等役務」とは、百貨店や総合スーパーなどのように、幅広い商品の小売または卸売を行う場合に指定するものですが、このような役務を個人がするとは考えにくいので、個人が出願した場合には、使用意志について疑わしいものとされます。また、法人であっても、調査の結果疑わしいとされる場合もあります。
(2)は、類似の関係にない複数の小売等役務(例えば、「被服の小売」と「自動車の小売」)を同一事業者が行うことは一般的に考えにくいためです。
(3)は、原則として、一区分内において、23以上の類似群コードにわたる商品・役務を指定している場合、指定する範囲が広すぎるとして、使用意志について疑わしいものとされます。
従って、逆に言えば、同一区分内の類似群コードの合計が22までであれば、使用意志の確認をされることはありません

ここで、「類似群コード」とは、指定商品・指定役務の類似性を判断するために特許庁により割り振られたアルファベットと数字からなる識別コードのことで、全ての商品・役務に付されています。
(例えば、ビールには[28A02]、酎ハイには[28A02]、日本酒には[28A01]が振られていて、ビールと酎ハイは類似群コードが同じですので、互いに類似すると推定されます。一方、ビールと日本酒は類似群コードが異なるので非類似と推定されます。※類似群コードによる類似性の判断はあくまでも「推定」です。)

実は、この(3)については、今年の4月より改定商標審査便覧の運用が開始され、出願手続上でのルールが大きく変更されました。
以前の運用では、類似群コードの上限数が7を超えると(8以上の場合)、使用意志の確認のため、拒絶理由が通知されていました。
また、同じ商品・役務に複数の類似群コードが付されている場合はカウントとしては1つとするなど、類似群コードの数え方も少し複雑でした。

一方、現在の運用では、商品・役務に付されている類似群コードの数え方は単純に合計すればよいだけとなりました。
(例えば、一つの指定商品・指定役務に2つのコードが付されている場合は2つとしてカウントすればよいので、分かりやすくなったと思います。)
また、類似群コードの上限数も増えましたので、より広い範囲の商品・役務を指定することが可能になりました。

今後、一つの出願で複数の商品・役務を指定する場合は、効率的な出願のために参考にしていただければと思います。
詳しくは、特許庁のHPをご参照ください。

https://www.jpo.go.jp/torikumi/t_torikumi/h30-03_oshirase_syouhyoubin_kaitei.html
https://www.jpo.go.jp/tetuzuki/t_shouhyou/shutsugan/shitei_chui.htm
3.指定商品・指定役務について、使用又は使用の予定がある商標を出願していることについて)