商標権の取り方について思うこと(スタ満ソバに関するニュースを見ての感想)

今回の新着情報は、最近当職が見た商標絡みのニュースに関する所感になります。

ニュースの概要は以下のようなものになります。
●「元祖スタミナ満点らーめんすず鬼」というラーメン屋さんは、フランチャイズ店も含む店舗で「スタ満ソバ」という商品名のラーメンを提供してきた。
●今回、お客様からの連絡で、別のラーメン屋さんが「スタ満そば(ソバは平仮名表記)」という名称でラーメンを提供し始め、それがテレビ等で紹介されているという事実を知った。
●「すず鬼」としては、「スタ満ソバ」という商品(名)は「すず鬼」が最初に考えたネーミングであり、商標登録もしているので、相手のラーメン屋さんに商品名の変更をお願いしたが、はぐらかされて対応してもらえなかった。
●弁護士にも相談したが、お金の無駄ではないかとアドバイスされた。
●別のラーメン屋の「スタ満そば」を食べて、これが「スタ満ソバ」と勘違いされるのが1番悔しい。
 https://news.yahoo.co.jp/articles/1b594bd70e9d0a5d08ea03851f6a947054cf0da2
 https://x.com/suzukisutaman/status/1857704848017469777/photo/1

なお、少し調べて見たところ、「すず鬼」の「スタ満ソバ」はラーメンファンの間では一定の認知度があるようです。

当職がこのニュースを見たときに疑問に思ったのが、「すず鬼」さんの「スタ満ソバ」と、相手のラーメン屋さんの「スタ満そば」は、商標で言うと極めて類似性が高い(ほぼ同一と言ってもいい)のに、何故、相手のラーメン屋が名称変更に応じなかったのか(相手のラーメン屋が「すず鬼」さんの要求を突っぱねる理由はどこにあるのか)、という点でした。

そこで、「すず鬼」が取得している商標権の内容を確認したところ、その理由が少しわかったので、今回新着情報としてUPしたいと思います。
「すず鬼」は店主の個人名義で8件の商標権(29類、30類の商品名と43類の店舗名)を取得されていることが確認できましたが、今回のニュースに関係する商標権に関しては以下のような内容になっていました。

29類、30類の商品名に関する商標権 43類の店舗名に関する商標権
登録6393702(スタミナ満点らーめん スタ満ソバ) 登録6318236(スタミナ満点らーめん スタ満ソバ)
登録6659227(スタミナ満点らーめん) 登録6659227(スタミナ満点らーめん)
ここの商標権がない! 登録6355501(スタ満)
  登録6340963(皿スタ満)

ここで着目すべき点は、商品名(ラーメンの名称:30類)としての商標権は、「スタ満ソバ」ではなく、「スタミナ満点らーめん」というフレーズも入った「スタミナ満点らーめん スタ満ソバ」であるということです。
つまり、ラーメンの名称に関しては、「すず鬼」の商標権(「スタミナ満点らーめん スタ満ソバ」)と、相手のラーメン屋さんの商品名(「スタ満そば」)は、厳密に言えば同一ではない、ということです。
なお、別のラーメン屋さんの「スタ満そば」は、「スタミナ満点らーめん スタ満ソバ」の商標権の類似範囲の使用であると認定される可能性はありますが、この点は最終的には裁判所の判断になりますし、「すず鬼」は裁判においてそのことを立証しなければならないので、やってみないと分からない部分もあろうかと思います。(弁護士のアドバイスもそのことを考慮してのことと思います。)

当職はこのニュースを見て、素朴な疑問として、何故、「すず鬼」は30類について「スタ満ソバ」或いは「スタ満」「スタマン」の商標権を取得しなかったのだろうという感想を持ちました。
30類について「スタ満ソバ」或いは「スタ満」「スタマン」について商標権を取得しておけば、何の問題もなく、相手のラーメン屋さんに商品名の変更をさせることができたと思います。(相手のラーメン屋さんも要求を呑まざるを得なかったと思います。)
また、ついでに調べてみたところ、30類では「スタ麺」や「天理スタメン」の登録例はあるものの、「スタ満」や「スタマン」は登録されていなかったので、登録可能性の観点からも何故、商標権を取得しなかったのかについて疑問が残りました。
「すず鬼」の商標権は弁理士が代理しているものもあったので、何故、この点をアドバイスしなかったのかについても疑問が残りました。
当職は「すず鬼」の代理人ではないので偉そうなことは言えませんが、今後の事業のことを考慮すれば、今からでも、30類について「スタ満ソバ」或いは「スタ満」「スタマン」の商標出願を行って、権利化をしておくべきではないかとも思います。
なにかご事情があってのことであれば、失礼をご容赦頂きたく思いますが、商標権の取り方について注意が必要であることを再認識した事例でした。