「それってパクリじゃないですか?」第2回放送について

今回の新着情報もテレビドラマ「それってパクリじゃないですか?」に関するものになります。
このドラマに関する記事を毎回UPすることはしないつもりだったのですが、書いておきたいことがありましたので、今回(のみ?)UPしたいと思います。

第2回のテーマは「パッケージの類似」でした。また、サブテーマとして「パクリとパロディの違い(境界線)は?」というものもありました。

放送をご覧になった皆さんはどういう感想をお持ちでしょうか?
「ハッピーエンドになってよかった」、「分かり易かった」、「内容が難しかった」など色々な感想をお持ちかと思いますが、当職はあるセリフが印象に残りました。
それは、主演の芳根京子さん(藤崎亜季)が言った、「これは気持ちの問題なんです。」というセリフです。
上手い表現だと思いました。(因みに、重岡大毅さん(北脇弁理士)は「問題は、悪意の有無ではなく、配慮の有無です。」と言っていましたが、少しわかりにくいかなぁと思いました。)

そうなんです。我々、知財で飯を食っている者は、やれ「外観だ」、「称呼だ」、「取引の実情だ」、「審査基準だ」、「判例だ」など、色々理屈を並べて類否判断をしている(しているような気になっている?)のですが、実際のところ、類似しているのかしていないのか(パクリなのかパロディなのか)は、オリジナルの側の「気持ち」の問題なのです。
ドラマでも主人公の藤崎亜季が、パクリとパロディの違い(境界線)について考え続けていました。
ドラマでは、その境界線(判断基準)はこれだ!、みたいな明確な言及はありませんでしたが、その境界線(判断基準)は、正に「気持ちの問題」という言葉に集約されていると思います。
つまり、オリジナル側が「気持ち」として許せる(許容できる)のであれば明らかに類似していてもそれはパロディになりますし、オリジナル側が「気持ち」として許せない(許容できない)のであれば類似か否かが微妙であってもそれはパクリになってしまう、ということです。

その証拠とまでは言えないかもしれませんが、ドラマでは実際にあった「白い恋人(石屋製菓)」と「面白い恋人(吉本興業)」の係争事件が紹介されていました。
ドラマでは、単に和解が成立した、としか触れられていませんが、実際に両社間で約8年、裁判所で争った上でなされた和解内容(概要)は以下のようなものです。https://news.ntv.co.jp/category/society/223103

(1)吉本興業側はパッケージの図柄を変更する。
(2)吉本興業側は(1)のパッケージ内容で「面白い恋人」の販売を行うが、関西6府県でのみ販売を行い、それ以外の地域での販売は原則行わない(近畿以外の地域における物産展などでの販売は例外的に認められる)。
(3)賠償金は発生しない。

皆さんはこの和解内容についてどういう感想を持ちますか?
図案変更や販売地域の限定はありますが、吉本興業側は「面白い恋人」の販売を継続できるという結果を得ました。
石屋製菓側は、少なくとも自社の最大の商圏である北海道や東京では「面白い恋人」の販売を止めさせることはできました。
しかしながら、賠償金を勝ち取ることや「面白い恋人」自体を葬り去ることはできませんでした。
石屋製菓としては大満足という結果ではなかったと思いますが、8年もの時間をかけて争ったのは、どうしても許せないという、正に「気持ちの問題」だったんじゃないかと思います。

最後に、当職の感想だけでは新着情報になりませんので、少し解説をしたいと思います。

今回のような「パッケージ」に関して、類似しているのか・していないのかの判断(類否判断といいます)は、商標法からのアプローチと不正競争防止法(以下、不競法)からのアプローチがあります。

商標法からのアプローチとしては、まず、両者の「商標」と「商品(または役務)」を特定します。
具体的には、月夜野ドリンクが保有している商標権の内容は、商標が「緑のお茶屋さん」で、指定商品は恐らく「清涼飲料(お茶)」ではないかと思います。
一方、落合製菓が実施しているパッケージ内容は、ネーミングが「緑のおチアイさん」で、商品は「チョコレート」です。
まとめると以下のようになります。
 商標:「緑のお茶屋さん」vs「緑のおチアイさん」
 商品:「清涼飲料」vs「チョコレート」
次に、パクリ側の「商標」と「商品」が、オリジナル側が保有している商標権の「商標」と「商品」の範囲に属しているか否かを検討します。
この際、月夜野ドリンクの主張としては、以下のようなものが考えられます。
「緑のお茶屋さん」と「緑のおチアイさん」は、称呼(読み方)において「ミドリノオチャヤサン」と「ミドリノオチアイサン」であり、相違する箇所は「ャヤ」と「アイ」のみであり、10文字中8文字(80%)が一致しているので、商標として類似であるという主張。
「清涼飲料」と「チョコレート」は、需要者の範囲が一致している(商標審査基準)など、取引の実情から総合的に判断すると類似する関係にあるという主張。
従って、「緑のおチアイさん」は、「緑のお茶屋さん」との間において「商標」と「商品」が類似する関係にあり、月夜野ドリンクの商標権を侵害しているという主張。
しかしながら、両者の「商標」と「商品」は、いずれも同一ではなく、あくまでも類似していると見ることもできるという程度です(非類似と見ることもできる)ので、月夜野ドリンクの主張が認められるのかは微妙だと思います。(最初、北脇弁理士が二の足を踏んでいたのはこのような理由があるからだと思います。)

不競法からのアプローチとしては、まず、両者のパッケージの内容を特定します。
ここで、不競法においては対象となるのは、両者の実際のパッケージ内容(デザイン)になります。(商標権の有無は関係ありません。)
そうすると、両者のデザインは似ていますよね。
しかしながら、不競法はそれだけでは権利侵害にはなりません。
不競法において権利侵害と認定されるためには、デザインが似ているだけではダメで、オリジナル側のデザインが需要者の間で広く認識されているもの(周知)でかつ両者が混同している(不競法2条1項1号)か、或いはオリジナル側のデザインが著名(『超』周知ということです)であること(不競法2条1項2号)が必要になります。
この点、ドラマでは「緑のお茶屋さん」は大ヒット商品という設定で、落合製菓は月夜野ドリンクのパッケージデザインの変更に追随して、意図的に「緑のおチアイさん」のパッケージデザインも変更しているという設定になっていました。
恐らく、制作者側としては、不競法2条1項1号(周知かつ混同)に該当するという方向に誘導したいのではないかと思われます。(北脇弁理士が自分でも調査をしてみると言っていたのは、これだったら勝算があると考えたのではないかと思います。)

なお、ドラマではOEM(Original Equipment Manufacturer:他者ブランドの受託製造)という解決策が提案され、ハッピーエンドになりました。
ドラマとしてはいいアイデアと思いますが、残念ながら、ビジネスの世界はそれほど甘くはないので、実務ではこのような落としどころはほとんどありません。(最後は、北脇弁理士みたいになってしまいました(笑))