年: 2023年

年末年始の営業について

弊所は、GW・お盆・年末年始を問わず、特許庁が開庁している日は営業することにしております。
従いまして、年末年始につきましても以下のスケジュールで営業・稼働しておりますのでよろしくお願い申し上げます。

~12月28日(木):通常営業
12月29日(金)~2024年1月3日(水):休み
1月4日(木)~  :通常営業

 

無料相談会の趣旨について(再掲)

この度は岡 特許商標事務所HPをご覧頂き、ありがとうございます。
さて、弊所の特徴である無料相談会をご説明させて頂きたいと思います。

この無料相談会は、当職が勤務弁理士時代から沈思黙考していたものであり、独立を決意した動機の1つでもあります。
また、弊所の理念にも通じるものであり、このHPを開設した理由でもあります。
当職の故郷である和歌山県は農林水産物を始めとする多くの産業資源や様々な観光資源があり、それらを活用して新技術や新商品を生み出されている方が多くいる一方、それらをうまく保護し活用できていないがために事業として発展していない事例(個人の趣味レベルの範疇で留まっている方々)を多く見てきました。
また、和歌山県は知的財産の保護・活用に関する意識が残念ながら他の都道府県に比べて低く、特許や商標の出願数も近畿地方の中では毎年最下位争いをしている状況となっています。

当職は弁理士登録以降、このような状況(資源もアイデアもあるのに、あまりにも事業としての成功率、成長率が低いこと)がなぜ続いているのかをずっと考えていました。
事業化の成否は技術や商品の良し悪しだけではなく、様々な要因があると思いますが、そもそも知的財産制度自体を知らない方(特許や商標という言葉は聞いたことがあっても、内容を知らない方)や、あるいは日々の資金繰りや営業活動に奔走するのに手一杯で知的財産と無縁の経営をしてきたという方が案外多く、折角生み出した知的財産をうまく保護・活用できていないのではないかと思い始めました。

なお、中小企業庁が2009年に発行した中小企業白書においても、特許を保有している企業(知的財産の保護に気を遣っている企業と言ってもよいかもしれません)は、そうでない企業に比べて従業員1人当たりの営業利益が高くなることが統計上、裏付けられています。
また、同白書には出願をしない理由も統計が取られていますが、中小企業はコスト負担が大きいことがネックになっています。
もちろん、出願をして権利を取得することが全てではなく、必要に応じて営業秘密(ノウハウ)として管理することも重要なのですが、ノウハウ管理を選択した場合でも第三者が同じノウハウについて権利を取得しまった場合への対応等、適切な手当をした上でノウハウ管理をされているのか、甚だ疑問です。

また、知財についての関心はあるのだが、特許事務所(弁理士)に相談すること自体に敷居の高さを感じている方も多くあるのではないかと思い始めました(すぐにお金の話をするのでは?依頼を前提としないと真剣に話を聞いてくれないのでは?素人がトンチンカンな話をすると怒られるのでは?)

そこで、気軽に、知財について日頃お考えになっていることや疑問を相談して頂き、知財制度を理解してどのような対応をすればよいかを知って頂く機会を設けるべきと思い、郷里の知財の啓蒙を図るべく無料相談会の開催をしている次第です。
また、中小企業白書の事実を知っていただき、和歌山の事業者様もさらに上のステージへと事業を進めて頂きたいという思いもあります。
従いまして、ボランティアとして実施していますので、弊所への仕事の依頼などを誘導するようなことは一切致しません(ご質問があった場合にも費用などの回答は極力しないようにしています。簡単な書類であれば書類作成の仕方も指導しています。)。
また、何度でも無料で相談対応をさせて頂いております(他にご予約の方がいない場合は時間の制限も設けず、対応させて頂いております。ただ、あまりにも長時間になる場合には次回の相談日に再度お越し頂くようにお願いすることがあり得ますが...)。

開所以来現在に至るまで、和歌山県全域や泉南地区にお住まいの方々のご相談に対応させて頂いている実績(のべ約250件)がありますので、是非お気軽に弊所無料相談会をご活用下さい。

ラグビーと特許

今回は少し趣を変えて、くだけた記事をUPさせて頂きます。

昨日、ラグビーワールドカップの第10回フランス大会の決勝戦が行われ、南アフリカ代表がニュージーランド代表に12-11で勝利し、2大会連続、4度目のラグビー世界一に輝きました。
今回のフランス大会はラグビーワールドカップ史上最多の観客動員数(200万人以上)になりそうだということです。
前回の第9回日本大会も大変な盛り上がりを見せ、日本中がラグビー一色で湧きかえりました(観客動員数:約170万人、台風のため3試合は中止)。
弊所も開所10周年にあたったことから、記念イベントを開催し、お客様をご招待させて頂きました。
大変喜んで頂くことができ、良い思い出となっています。

さて、今回の決勝戦は、両チームのキャプテンが行った頭部へのタックルについて、両者に審議付きのイエローカードが提示され、その後の審議結果が勝敗に大きく影響を及ぼすことになりました。(ニュージーランド代表のキャプテン:レッドカードに格上されて退場処分、南アフリカ代表のキャプテン:イエローカードの判定が維持されて10分後に試合復帰)
ラグビーはレフリーの判断が絶対(レフリーの判定に抗議する行為自体が反則)なので、これは致し方の無いことなのですが、世界のラグビーメディアは今回の判定は正しいものだったのか(統一性が担保されていたのか)という論評を展開しています。

このような論評が展開されてしまうのは、タックルの危険度を判断する指標がレフリー団(人間)の所見のみであることに起因しているからなのですが、近年、この判断のバラツキを無くそうという試みが行われています。
概要としては、ラグビー選手は通常、衝撃に備えるためにマウスピースを口の中に入れてプレイをしているのですが、そのマウスピースに衝撃を感知するセンサを内蔵して、タックルを受けた際の衝撃度が一定の数値以上になった場合には強制的に一時退場させて専門医によるHIA(Head Injury Assessment:頭部外傷評価)を受診させたり、或いはその衝撃度に応じてイエローまたはレッドの判定を自動的に行おうという試みが行われています。
今回のフランス大会(男子大会)では採用されませんでしたが、2022年に開催された女子のラグビーワールドカップ(ニュージーランド大会)では既に試験的な導入が行われています。
「スマートマウスガード技術(smart mouthguard technology)」と言われるもので、米国のPREVENT BIOMETRICS社によって開発された技術になります。
同社は、係る「スマートマウスガード技術(smart mouthguard technology)」を用いたマウスピース(IMPACT SENSING MOUTHGUARD:写真1写真2)について特許出願も行っています(WO2020102378)。
具体的には、マウスピースを内枠(102、106)と外枠(108)に分割して、この内枠と外枠の間に回路を構成したシート状の部材(104)を挟み込む構造になっています。
そして、回路には、「衝撃測定、活動追跡(例えば、歩数カウント、活動認識、位置デッドレコーディング)、生体測定モニタリング(例えば、心拍数、体芯温、呼吸数、血圧、血中酸素飽和度など)、位置決定(例えば、既知の位置ビーコンに基づく定義された環境内のGPS位置または三角測量位置)、および他の機能のための1つまたは複数の回路を含むことができる。」と記載されています。
当該出願は、米国、欧州、オーストラリアに移行手続がなされており、欧州においては特許査定を受けています。(特許番号:EPB3880111
このような技術が実用化されたのも、半導体の技術が進歩し、口の中に入れても違和感がない程、センサ機能やアンテナ機能を小型化・薄型化することが可能になってきたからです。

なお、世界のラグビーを統括しているワールドラグビーは、この取り組みを選手の福祉(player welfare)のためと言っているのですが、ワールドラグビーがこのマウスピースの導入を進めているのには、実は訴訟リスクの低減という側面もあります。
日本ではあまり報道されていないのですが、現在、英国においては元代表選手たちが集団訴訟を起こしています。(記事1記事2記事3記事4
具体的には、現役中に受けた頭部への衝撃が原因で若年性認知症や慢性外傷性脳症(パンチドランカー症候群)を発症したとして、ワールドラグビーや所属していた協会に対して過失に基づく損害賠償請求訴訟を起こしているのです。

つまり、ワールドラグビーとしては、このような状況(安全管理に対する法的な過失を問われるような状況)が常態化してしまうと、ラグビーというスポーツが存続できなくなってしまう可能性もあるので、頭部へのタックルに対する安全管理や反則(罰則)の強化を行うことで、そのようなタックルの防止を図ろうとしているという背景があります。
そして、その一環としてIMPACT SENSING MOUTHGUARD(衝撃感知マウスガード)の本格導入も検討されています。

  

9月10日の相談会は中止させて頂きます。

9月10日(9月第二日曜日)の無料相談会につきましては、中止をさせて頂きます。

理由ですが、特許庁データベース(J-PlatPat)が、9月8日(金)19:00~9月10日(日)12:00の間メンテナンス期間に入り、使用ができなくなることから、的確なアドバイス(特に商標に関するアドバイス)が出来なくなるためです。
なお、受付フォームはシステム上、特定日の受付の締め切りができないことから、ご予約の入力・送信が出来てしまい、自動的に受付完了の返信メールが送信されることになりますが、9月10日についてはご予約をされても相談をお受けできませんので、ご了承の程よろしくお願い申し上げます。

9月24日(9月第四日曜日)は、通常通り、無料相談会を開催致しますのでご活用下さい。

お盆の営業について

弊所は、GW・お盆・年末年始を問わず、特許庁が開庁している日は営業することにしております。
従いまして、お盆につきましても以下のスケジュールで営業・稼働しておりますのでよろしくお願い申し上げます。

8月10日(木):通常営業
8月11日(金):休み(祝日)
8月12日(土):休み
8月13日(日):休み(但し、第二日曜日になりますので無料相談会は実施します。)
8月14日(月)~:通常営業

「ゆっくり茶番劇」事件のその後

今回の新着情報は、以前、世間を騒がせた「ゆっくり茶番劇」事件についてです。
今般、「ゆっくり茶番劇」の商標権(登録第6518338号)について進展があったので、新着情報としてUPしたいと思います。

「ゆっくり茶番劇」の商標権(登録第6518338号)については、以前の新着情報において、権利が発生してから放棄手続が完了するまでの間(2022年2月24日~2022年6月8日の期間)は権利が存在している状態になっていることを指摘させて頂きました。
その後、株式会社ドワンゴが、この期間の商標権を潰すため「ゆっくり茶番劇」の商標権について無効審判を請求しておりましたが、先日、この無効審判の審決が出て、その内容が公開されました。
無効2022-890065号(ゆっくり茶番劇、無効審決)

そこで、今回の新着情報では、この審決謄本の要点を抜粋して纏めてみたいと思います。

まず、無効審判を請求する際、請求人(今回は株式会社ドワンゴ)は、登録商標(今回は「ゆっくり茶番劇」)が商標法の何条に違反して登録されたものであるかを主張します。これを請求理由と言います。
今回、株式会社ドワンゴが主張した請求理由は以下の4つでした。
 3条1項柱書 違反:登録査定の時点で未使用であるだけでなく、将来においても使用する
           意思・予定の無い商標について商標登録がなされたという主張
 3条1項3号 違反:単に商品の産地、販売地、品質等又は役務の提供の場所、質等のみを
           表示する商標について商標登録がなされたという主張
 3条1項6号 違反:需要者が何人か(特定の法人や個人)の業務に係る商品又は役務である
          ことを認識することができない商標ついて商標登録がなされたという主張
 4条1項7号 違反:公序善俗を害するおそれがある商標ついて商標登録がなされたという主張

そして、審決で特許庁は各請求理由について以下の判断を下しました。
 3条1項柱書 違反:違反無し(柚葉氏の勝ち)
 3条1項3号 違反:違反有り(株式会社ドワンゴの勝ち)
 3条1項6号 違反:違反有り(株式会社ドワンゴの勝ち)
 4条1項7号 違反:違反有り(株式会社ドワンゴの勝ち)
なお、請求理由の内、1つでも違反があれば商標権は消滅しますので、結論としては株式会社ドワンゴの勝ちということになります。

次に、各請求理由に関する、請求人側(株式会社ドワンゴ)の主張内容、被請求人側(柚葉氏)の反論内容、特許庁の判断結果は、簡単に纏めると以下のような内容でした。重要と思われる部分を赤字にしています。

  請求人側の主張 被請求人側の反論 特許庁の判断
3条1項柱書 違反

・登録査定の時点で柚葉氏が使用している事実が発見できない
・登録になってから、ライセンス契約等の告知を開始している

→ 登録査定の時点で未使用

提出した証拠から、柚葉氏は使用している。
(尚、証拠は公開されていないことから内容は不明)
 
 
  

登録査定時における柚葉氏の使用の事実は認められないが、使用の意思・予定が無かったとまでは言えない
 
 
  
 

3条1項3号 違反 提出した証拠から、「ゆっくり茶番劇」は約6万件の動画において多数の人々に使用されている。

→「ゆっくり茶番劇」は役務の質を表示する商標であって識別力がない商標である。
また、一私人に独占させるものではない。
  

提出した証拠から、「ゆっくり茶番劇」は、「ゆっくり実況・解説」に比べヒット件数が少ない。

「ゆっくり実況」:約800万件
「ゆっくり解説」:約468万件
「ゆっくり茶番劇」:約17000件

→ よって、役務の質を表示する商標ではない。

3条1項3号 違反の判断において「ゆっくり実況・解説」のヒット件数を基準として判断しなければならない理由は無い
また、約17000件は決して少ない件数ではない
  
  
  
  
  

3条1項6号 違反 「ゆっくり茶番劇」は動画だけでなく、電子書籍(出版)やゲームにおいても多数の人々に使用されている。

→ 需要者が何人か(特定の法人や個人)の業務に係る役務であることが認識できない商標である。

上記のヒット件数から、「ゆっくり茶番劇」は広く知られていたわけではない。
  
  
  
  
  
  
  
  
  
請求人提出の証拠によって、「ゆっくり茶番劇」は動画のジャンル・カテゴリーの1つを表したものに過ぎないものである。

→ よって、需要者が何人か(特定の法人や個人)の業務に係る役務であることが認識できない商標である。
 

4条1項7号 違反 被請求人の行動(時系列)

・商標出願の異議申立期間が経過した直後に、被請求人はツイッターでライセンス料(10万円)の告知を開始。
・このツイートに対して約3万件の抗議のリツイートがなされ、9590件の関連記事が投稿されて社会問題に発展。
・その翌日に被請求人はライセンス料領収の意向を撤回

これらの事実によれば、被請求人は、多くの需要者が本件商標を使用し又は使用を欲していることを十分に認識した上で、本件商標が登録されていないことを奇貨として本件商標を出願したものであり、登録の暁には、多くの需要者から使用料名目で金銭を請求できるとの不正の目的をもって本件商標を出願したことは明らかである。
  
  
  
 
  
 
  

被請求人が商標登録した目的は以下のとおり。

・商標を守りたいと考えていた
・投稿者間では非常に陰湿ないじめ、嫌がらせ行為が日常的に起きていたため、そのような状況を改善したいと考えていた
・本件商標を用いた動画のジャンルを明確にしたいと考えていた
・著作権侵害などがあふれていたことから法の遵守を徹底した管理をしたいと考えていた

→ SNSで公表したことにより炎上してしまったことは事実であり、その最初の発表方法自体は間違っていたと被請求人も感じている。
しかし、被請求人がSNSで公表したのは、第三者とのトラブルがあり、その第三者向けのつもりで強めの主張を行なったものである。
10万円についても振込口座などは一切開示しておらず、すぐに10万円という条件もなくしている。

被請求人は他の投稿者が「ゆっくり茶番劇」に関する動画を投稿していることを知っていたといえる
このような状況において被請求人が「ゆっくり茶番劇」の使用を制限し、年間使用料10万円を徴収しようとすれば、無用な混乱を起こさせることは当然に予想できたことといえる。
被請求人は、嫌がらせ行為があったことや著作権侵害があふれていることなどを主張するが、仮にそのようなことがあったとしても、そのような行為を行っていない者の全てに対して、無用な混乱を招いてよいものではない。

→ よって、このような混乱を招くおそれがある本件商標の登録を認めることは、社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するというべきである。
  
  
  
  
  
  
  
  

 

最後に、当職の感想ですが、今回の審決で注目されるのは4条1項7号 違反(公序良俗違反)が認定されたことだと思います。
特許庁の判断において認定された、「他の投稿者がゆっくり茶番劇に関する動画を投稿していることも知っていたといえる状況において、ゆっくり茶番劇の使用を制限し、年間使用料10万円を徴収しようとする」という、柚葉氏の行為は、審決謄本にも記載されているとおり、「社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する」ものと言わざるを得ないと思います。
また、この審決は、担当した弁理士に対しても言い渡された(諭された)ものと当職は考えます。(まあ、一旦、登録を認めた特許庁もどうかとは思いますが・・・・)

但、前回の新着情報でも記載しましたが、今回の事件は担当した弁理士がきちんとした(毅然とした)対応をしていれば十分に防止できた事件であったと当職は考えています。
今回公開された審決の内容を受けて、改めて当職は、これを反面教師として今まで以上に気を引き締めて弁理士活動を行いたいと思います。

※:今回の審決に対しては、双方が裁判所(知的財産高等裁判所)に審決取消訴訟を提訴することができますので、推移を見守る必要があります。
2023.10.30追記:当該審決については、審決取消訴訟がなされず、2023.9.12日付にて審決の確定登録がなされました。これで、「ゆっくり茶番劇」の商標権(登録第6518338号)は、「初めから存在しなかつたもの(商標法第46条の2第1項)」とみなされることになり、完全消滅しました。めでたしめでたしです。

7月1日は「弁理士の日」です。

7月1日が「弁理士の日」になっていることはご存知ですか?

弁理士法の前身である「特許代理業者登録規則」が、明治32年(1899年)の7月1日に施行されたのを記念して、日本弁理士会では7月1日(施行日)を「弁理士の日」に制定しています。
弊所も各種の媒体に広告を出して、啓発活動を行っております。
日本弁理士会においても各種のイベントを企画していますので、ご興味がございましたらご参加ください。

日本弁理士会関西会主催 記念事業
https://www.kjpaa.jp/seminar/57480.html

日本弁理士会関東会主催 記念事業
https://www.jpaa-kanto.jp/event/

「それってパクリじゃないですか?」放送終了

6月14日(水)の第10回放送を以って、「それってパクリじゃないですか?」の放送が終了しました。
放送開始前から知財業界の中では関心が高かったドラマでした。
特許庁も庁舎の提供や実際の審査官がエキストラとして参加するなど全面協力しており、庁のツイッターでも水曜日の前後には書き込みがされていました。
視聴率としてはあまり芳しくなかったようですが、今回、知財部や弁理士という職業を正面から取り上げるという「英断」をなされた日本テレビに敬意を表したいと思います。
個人的には、発生したトラブル(知財に関する事件)が毎度、放送回の中で解決するというスタンスに若干の違和感を感じました。
事件が毎回完結(解決)するという読み切りのようなストーリーよりも、9回と10回のように放送回を跨いで事件が解決するようなストーリーの方が、より丁寧に描写(知財面からの説明)ができ、話が面白くなったのではないかと思いましたが、色々な制約があったのだろうと思います。
また、折角の機会だったので、特許庁(公的機関)があれだけプッシュしているのだから、日本弁理士会としても何かしらの協力をして欲しかったと思いました。
何はともあれ、弁理士がドラマに取り上られる職業として認識されたことに感慨深いものを感じました。(当職が弁理士になったときには想像もできませんでした。)
もしかすると、弁理士が主役として登場するドラマは今回が最初で最後(?)になるかもしれませんが、諸先輩方が努力されて「弁理士」という職業の信用を世間に築き上げてこられた結果だと思います。
最近、弁理士の名称を用いてSNS上で特定企業の情報を摘示し、金融商品取引法により禁止されるインサイダー取引に該当するのではないかと指摘された若い弁理士がいたようですが、当職はより気を引き締めて弁理士活動を行いたいと思います。

無料相談会の趣旨について(再掲)

この度は岡 特許商標事務所HPをご覧頂き、ありがとうございます。
さて、弊所の特徴である無料相談会をご説明させて頂きたいと思います。

この無料相談会は、当職が勤務弁理士時代から沈思黙考していたものであり、独立を決意した動機の1つでもあります。
また、弊所の理念にも通じるものであり、このHPを開設した理由でもあります。
当職の故郷である和歌山県は農林水産物を始めとする多くの産業資源や様々な観光資源があり、それらを活用して新技術や新商品を生み出されている方が多くいる一方、それらをうまく保護し活用できていないがために事業として発展していない事例(個人の趣味レベルの範疇で留まっている方々)を多く見てきました。
また、和歌山県は知的財産の保護・活用に関する意識が残念ながら他の都道府県に比べて低く、特許や商標の出願数も近畿地方の中では毎年最下位争いをしている状況となっています。

当職は弁理士登録以降、このような状況(資源もアイデアもあるのに、あまりにも事業としての成功率、成長率が低いこと)がなぜ続いているのかをずっと考えていました。
事業化の成否は技術や商品の良し悪しだけではなく、様々な要因があると思いますが、そもそも知的財産制度自体を知らない方(特許や商標という言葉は聞いたことがあっても、内容を知らない方)や、あるいは日々の資金繰りや営業活動に奔走するのに手一杯で知的財産と無縁の経営をしてきたという方が案外多く、折角生み出した知的財産をうまく保護・活用できていないのではないかと思い始めました。

なお、中小企業庁が2009年に発行した中小企業白書においても、特許を保有している企業(知的財産の保護に気を遣っている企業と言ってもよいかもしれません)は、そうでない企業に比べて従業員1人当たりの営業利益が高くなることが統計上、裏付けられています。
また、同白書には出願をしない理由も統計が取られていますが、中小企業はコスト負担が大きいことがネックになっています。
もちろん、出願をして権利を取得することが全てではなく、必要に応じて営業秘密(ノウハウ)として管理することも重要なのですが、ノウハウ管理を選択した場合でも第三者が同じノウハウについて権利を取得しまった場合への対応等、適切な手当をした上でノウハウ管理をされているのか、甚だ疑問です。

また、知財についての関心はあるのだが、特許事務所(弁理士)に相談すること自体に敷居の高さを感じている方も多くあるのではないかと思い始めました(すぐにお金の話をするのでは?依頼を前提としないと真剣に話を聞いてくれないのでは?素人がトンチンカンな話をすると怒られるのでは?)

そこで、気軽に、知財について日頃お考えになっていることや疑問を相談して頂き、知財制度を理解してどのような対応をすればよいかを知って頂く機会を設けるべきと思い、郷里の知財の啓蒙を図るべく無料相談会の開催をしている次第です。
また、中小企業白書の事実を知っていただき、和歌山の事業者様もさらに上のステージへと事業を進めて頂きたいという思いもあります。
従いまして、ボランティアとして実施していますので、弊所への仕事の依頼などを誘導するようなことは一切致しません(ご質問があった場合にも費用などの回答は極力しないようにしています。簡単な書類であれば書類作成の仕方も指導しています。)。
また、何度でも無料で相談対応をさせて頂いております(他にご予約の方がいない場合は時間の制限も設けず、対応させて頂いております。ただ、あまりにも長時間になる場合には次回の相談日に再度お越し頂くようにお願いすることがあり得ますが...)。

開所以来現在に至るまで、和歌山県全域や泉南地区にお住まいの方々のご相談に対応させて頂いている実績(のべ約230件)がありますので、是非お気軽に弊所無料相談会をご活用下さい。

「それってパクリじゃないですか?」第2回放送について

今回の新着情報もテレビドラマ「それってパクリじゃないですか?」に関するものになります。
このドラマに関する記事を毎回UPすることはしないつもりだったのですが、書いておきたいことがありましたので、今回(のみ?)UPしたいと思います。

第2回のテーマは「パッケージの類似」でした。また、サブテーマとして「パクリとパロディの違い(境界線)は?」というものもありました。

放送をご覧になった皆さんはどういう感想をお持ちでしょうか?
「ハッピーエンドになってよかった」、「分かり易かった」、「内容が難しかった」など色々な感想をお持ちかと思いますが、当職はあるセリフが印象に残りました。
それは、主演の芳根京子さん(藤崎亜季)が言った、「これは気持ちの問題なんです。」というセリフです。
上手い表現だと思いました。(因みに、重岡大毅さん(北脇弁理士)は「問題は、悪意の有無ではなく、配慮の有無です。」と言っていましたが、少しわかりにくいかなぁと思いました。)

そうなんです。我々、知財で飯を食っている者は、やれ「外観だ」、「称呼だ」、「取引の実情だ」、「審査基準だ」、「判例だ」など、色々理屈を並べて類否判断をしている(しているような気になっている?)のですが、実際のところ、類似しているのかしていないのか(パクリなのかパロディなのか)は、オリジナルの側の「気持ち」の問題なのです。
ドラマでも主人公の藤崎亜季が、パクリとパロディの違い(境界線)について考え続けていました。
ドラマでは、その境界線(判断基準)はこれだ!、みたいな明確な言及はありませんでしたが、その境界線(判断基準)は、正に「気持ちの問題」という言葉に集約されていると思います。
つまり、オリジナル側が「気持ち」として許せる(許容できる)のであれば明らかに類似していてもそれはパロディになりますし、オリジナル側が「気持ち」として許せない(許容できない)のであれば類似か否かが微妙であってもそれはパクリになってしまう、ということです。

その証拠とまでは言えないかもしれませんが、ドラマでは実際にあった「白い恋人(石屋製菓)」と「面白い恋人(吉本興業)」の係争事件が紹介されていました。
ドラマでは、単に和解が成立した、としか触れられていませんが、実際に両社間で約8年、裁判所で争った上でなされた和解内容(概要)は以下のようなものです。https://news.ntv.co.jp/category/society/223103

(1)吉本興業側はパッケージの図柄を変更する。
(2)吉本興業側は(1)のパッケージ内容で「面白い恋人」の販売を行うが、関西6府県でのみ販売を行い、それ以外の地域での販売は原則行わない(近畿以外の地域における物産展などでの販売は例外的に認められる)。
(3)賠償金は発生しない。

皆さんはこの和解内容についてどういう感想を持ちますか?
図案変更や販売地域の限定はありますが、吉本興業側は「面白い恋人」の販売を継続できるという結果を得ました。
石屋製菓側は、少なくとも自社の最大の商圏である北海道や東京では「面白い恋人」の販売を止めさせることはできました。
しかしながら、賠償金を勝ち取ることや「面白い恋人」自体を葬り去ることはできませんでした。
石屋製菓としては大満足という結果ではなかったと思いますが、8年もの時間をかけて争ったのは、どうしても許せないという、正に「気持ちの問題」だったんじゃないかと思います。

最後に、当職の感想だけでは新着情報になりませんので、少し解説をしたいと思います。

今回のような「パッケージ」に関して、類似しているのか・していないのかの判断(類否判断といいます)は、商標法からのアプローチと不正競争防止法(以下、不競法)からのアプローチがあります。

商標法からのアプローチとしては、まず、両者の「商標」と「商品(または役務)」を特定します。
具体的には、月夜野ドリンクが保有している商標権の内容は、商標が「緑のお茶屋さん」で、指定商品は恐らく「清涼飲料(お茶)」ではないかと思います。
一方、落合製菓が実施しているパッケージ内容は、ネーミングが「緑のおチアイさん」で、商品は「チョコレート」です。
まとめると以下のようになります。
 商標:「緑のお茶屋さん」vs「緑のおチアイさん」
 商品:「清涼飲料」vs「チョコレート」
次に、パクリ側の「商標」と「商品」が、オリジナル側が保有している商標権の「商標」と「商品」の範囲に属しているか否かを検討します。
この際、月夜野ドリンクの主張としては、以下のようなものが考えられます。
「緑のお茶屋さん」と「緑のおチアイさん」は、称呼(読み方)において「ミドリノオチャヤサン」と「ミドリノオチアイサン」であり、相違する箇所は「ャヤ」と「アイ」のみであり、10文字中8文字(80%)が一致しているので、商標として類似であるという主張。
「清涼飲料」と「チョコレート」は、需要者の範囲が一致している(商標審査基準)など、取引の実情から総合的に判断すると類似する関係にあるという主張。
従って、「緑のおチアイさん」は、「緑のお茶屋さん」との間において「商標」と「商品」が類似する関係にあり、月夜野ドリンクの商標権を侵害しているという主張。
しかしながら、両者の「商標」と「商品」は、いずれも同一ではなく、あくまでも類似していると見ることもできるという程度です(非類似と見ることもできる)ので、月夜野ドリンクの主張が認められるのかは微妙だと思います。(最初、北脇弁理士が二の足を踏んでいたのはこのような理由があるからだと思います。)

不競法からのアプローチとしては、まず、両者のパッケージの内容を特定します。
ここで、不競法においては対象となるのは、両者の実際のパッケージ内容(デザイン)になります。(商標権の有無は関係ありません。)
そうすると、両者のデザインは似ていますよね。
しかしながら、不競法はそれだけでは権利侵害にはなりません。
不競法において権利侵害と認定されるためには、デザインが似ているだけではダメで、オリジナル側のデザインが需要者の間で広く認識されているもの(周知)でかつ両者が混同している(不競法2条1項1号)か、或いはオリジナル側のデザインが著名(『超』周知ということです)であること(不競法2条1項2号)が必要になります。
この点、ドラマでは「緑のお茶屋さん」は大ヒット商品という設定で、落合製菓は月夜野ドリンクのパッケージデザインの変更に追随して、意図的に「緑のおチアイさん」のパッケージデザインも変更しているという設定になっていました。
恐らく、制作者側としては、不競法2条1項1号(周知かつ混同)に該当するという方向に誘導したいのではないかと思われます。(北脇弁理士が自分でも調査をしてみると言っていたのは、これだったら勝算があると考えたのではないかと思います。)

なお、ドラマではOEM(Original Equipment Manufacturer:他者ブランドの受託製造)という解決策が提案され、ハッピーエンドになりました。
ドラマとしてはいいアイデアと思いますが、残念ながら、ビジネスの世界はそれほど甘くはないので、実務ではこのような落としどころはほとんどありません。(最後は、北脇弁理士みたいになってしまいました(笑))